「飲食業界は、なかなか人が定着しない」と言われがちです。求人情報を眺めながら、そんな話を耳にしたこともあるかもしれません。なぜ続かないのか、なぜ誇りが持てないのか。働き手の側にも、店舗の側にも、それぞれの言い分があります。
群馬県伊勢崎市から始まった、エルファースト株式会社という会社があります。2013年に高級個室焼肉LAMPを創業し、2024年にハンバーグ専門店ニクノトモシビ、2025年に厚切り牛タン専門店ギュータンベロンチョを立ち上げました。同じ会社が、まったく違う3つのブランドを動かしています。
なぜ、エルファーストは大きくなるのか。「飲食業を誇れる仕事に変える」という哲学が、なぜ多店舗展開に繋がるのか。3つのブランドの実像を通して、答えを書きます。

多店舗化の「目的」が、逆転している
普通、飲食店の多店舗化は効率化のためです。同じ業態を、別の立地に複製する。仕入れを束ね、調理を簡略化し、人件費を抑える。スケールメリットを取りに行く。
エルファーストの3ブランドを並べると、その逆をやっていることがわかります。
LAMPは、A5ランク神戸ビーフを五香刃物の包丁で繊維に沿って一枚ずつ手で切る、高級個室焼肉店。コースは16,000円から36,000円で、1日15食限定の肉重には「賞味期限15分」と書かれています。ニクノトモシビは伊勢崎で唯一のハンバーグ専門店。毎朝店内で挽き、注文後に手で成形し、ご飯は8杯までおかわり無料。ギュータンベロンチョは群馬で唯一の厚切り牛タン専門店。レスト法という、高級ステーキハウスの技法を牛タンに応用しています。
3つのお店、共通点があるところと、そうでないところもあります。
効率化とは真逆のように見えます。
なぜ、そうしているのか。答
えは、「飲食業を誇れる仕事に変える」という哲学の中にあります。
誇れる仕事とは、自分の手で違いを作れる仕事のことです。違いは、効率化したものからは生まれない。
3つのブランドが用意している、3つの「誇り」
ニクノトモシビには、「ハンバーグだけで勝負する」という専門性の誇りがあります。
挽きたての肉の香りと弾力は「この工程でしか出せません」と店が言い切る。お客さんは目の前の鉄板で、自分の好みに焼く。「難しいことは抜きにして、ただ目の前の一皿に夢中になってください」というメッセージが、すべてを言い切っています。

LAMPには、「本物を味わう」体験設計の誇りがあります。
「個室の扉を引くと、外の音が止まる。向かいに座る人の声だけが、はっきり届く」。接待・デート・家族の祝い。それぞれの場面で、領収書の宛名から手土産の手配まで、当日気を回すことが一つでも減るように、事前にすべて伺っておく。「言葉はいらない。ただ、本物を味わう」という言葉が、サービスの隅々まで通っています。

ギュータンベロンチョには、「常識を塗り替える」挑戦の誇りがあります。
2cmを超える厚切りを、レスト法で旨みを閉じ込めた状態で提供する。Google口コミは1,000件を超えて星4.6。「『美味しかった』では終わらせない」という言葉どおり、「また来たい」と感じる体験を、職人がカウンターの炭火の前で組み立て続けています。

3つのブランドは、違うお店でありながら、「セカイに希望と感動を」「飲食業を誇れる仕事に変える」理念は共通。
だから、働く人の顔つきが変わる。「自分はLAMPの肉を切れる」「ニクノトモシビでハンバーグを焼ける」「ベロンチョのカウンターに立てる」。これは、効率化された業態の中では絶対に生まれない感覚です。
規模が、一人ひとりにもたらすもの
ここで、ようやく多店舗展開の意味が見えてきます。
ブランドが3つあるということは、働く側に3つの選択肢があるということです。今日炭火の前に立っている人が、来年は個室の接客に回ってもいい。ハンバーグの仕込みを極めた人が、牛タンの厚切りに挑戦してもいい。違う業態を社内に持っていることが、職人の人生に縦と横の動きを与えます。
規模が大きくなれば、評価制度も、研修も、福利厚生も、用意できる選択肢が増えます。1店舗のままでは絶対に作れない厚みが、3店舗だと作れる。これが、規模拡大の本当の理由です。
エルファーストにとっての多店舗化は、「働く人の選択肢」を広げる話。だから、業態がバラバラのほうがいい。
同じことを増やすのではなく、違うことを束ねる。違いの中に、誇りが立ち上がる。
「セカイに希望と感動を」 ── その先に、働く側の人生がある
代表取締役社長・石田剛大が掲げる理念は「セカイに希望と感動を」。
お客さんに、希望と感動を届ける。それは目に見えやすい部分です。
その奥にもう一つ、隠れている話があります。希望と感動を「届ける側」もまた、自分の人生に対して希望と感動を持てているか。これが、エルファーストの多店舗展開の根っこにある問いです。
業界に、「誇り」という言葉を。
そのために、3つのブランドを動かし、これからも増やしていく。
なぜ、エルファーストは大きくなるのか。働く人の人生を、構造で守るためです。